自然環境保全とは「相手の気持ちになる」ことです。人がよいと思っても自然にとってよくないケースもあれば、そのまた逆もあります。何が正解かは分かりませんが、そういう感覚を自分の芯に持っておくことが、持続可能な社会では重要です。私たちは空間軸と時間軸の中で生きています。汚いものに蓋をすれば一つの目的は達成したように見えますが、10年後、50年後は果たしてそれで大丈夫なのか、時間軸で考えることもとても大切なのです。海洋環境の修復においても同じ考え方をします。例えば、人工ビーチを建設して、空間的に綺麗にしたとしても、さて未来はどうなるでしょうか。私が海洋微生物学を研究しているのは、すべてのプロセスに微生物が関係しているからです。お米を作る土壌、魚のいる海、その10年後がどうなっていくのかを、微生物を研究することで予測していきます。
研究室では、ろ過食性の二枚貝に着目し、その消化管内の微生物を調べる研究を行っています。貝が食べているものを調べれば、過去の水の様子が分かるはずです。でも一週間前までは分かりません。そこで研究室ではシジミをいろいろな条件で飼育し、何時間目まで餌としてやったものが検出できるか、ということを研究しています。そのようなデータをとった上で、次のステップでは実際に現場に行き、シジミを採取して何を食べていたかを調べます。だいたいのケースは同じものが出てくるはずですが、もし違っていたら面白いと思いませんか。つまり過去の微生物の履歴を、シジミは消化管内に「歴史」として持っているのです。拡大して言えば、これはエビやカニ、魚などほかの生物にも通用します。生物を使って環境を推測する、これを私は「バイオロガー」と呼んでいます。
二本柱で取り組んでいるもう一つのテーマが、最近ではがんの検診にも役立つのではと注目されている線虫の研究です。線虫を調べると、その環境の化学物質についてセンサーでは取れないものが取れるのではないか。そこで、干潟などでアサリやシジミが採れるところと採れないところでの線虫構造を調べることにしました。この研究によって、なぜアサリがいないのか、従来は酸素や塩分のあるなしでとらえていたものに、新たな側面が見えてくるかもしれません。これもやはり「バイオロガー」です。ゼミでは海に行き、採取して、解析する、という作業を行います。人が採ってきたサンプルではなく、自分が採ってきたサンプルを解析することが大切です。学生の皆さんには、データサイエンスと現場での直感力の両方を大事にしてほしいと思います。直感を得るためにはデータサイエンスが必要であり、得た直感を表現するためには数式化が欠かせません。そのような現場に強い人材を育てていきたいと考えています。